企業内の各事業部門における生成AIの活用方法
本記事では、企業の事業部と、各事業部で生成AIをどのように活用できるのか、活用するためにどのようなツールやソリューションを導入するとそれで何ができるのかを解説します。
各事業部での生成AI活用事例については、国内外のスタートアップ企業のソリューションなども例に出します。
企業に存在する各事業部門
企業に存在する事業部門には主に、人事、総務、経営企画、情報システム、マーケティング、営業、経理・財務、生産・研究開発があります。こちらを参考にしました。
企業によって、これらの各部門が合併されていたり、兼任体制であったり、本社とは別所在地に当該部署のみで一大拠点を設けていたり、そして各部門内は多様な階層に分かれていたり自立分散型であったりします。そのため、技術やツールの導入決裁権が全部門で足並みを揃えていたり、各事業部に任されていたりする例もあります。
人事部門における生成AI活用事例
人事部門における社外への仕事のひとつに採用活動があり、社内への仕事には社員の管理があります。
人事部門:採用活動における生成AI活用事例
Gemは特にスタートアップの採用に特化したプラットフォームです。LinkedIn、Indeed、その他 20 以上のサイトから、クリック 1 回で候補者を即座にプラットフォームに追加でき、メッセージのパーソナライズや応答率の向上に寄与するとしています。
スタートアップの採用に限定しなくとも、人事部門の採用業務は(そして候補者も)、多様なサイトなどに登録して幅広い出会いを募っているため、各種求人サイトの情報をまとめられるのは有用であると言えるでしょう。
また同社のAI採用ソリューションスイートを使うと、候補者のプロセスの支援を受けられます。検索のどの基準が候補者のプロフィールと一致したかを正確に強調表示されるなど、最終の判断は利用企業のお採用担当者に任される仕様です。
人事部門:社員の管理における生成AI活用事例
inFeedは従業員のエンゲージメントを高め、離職率を予測し、HR/ITサポートを自動化するAIツールです。独自のMLとNLPのエンジンを使っているとし、例えば従業員の個別フィードバックから感情を分析するとしています。
しかし短期で離職したり、離職を考え始めている従業員の中には感情を見せずフィードバックに定量的な文章を入力しなかったりする場合もありえます。そういった状況に対してはどのような洞察を提供してくれるのでしょうか?明示されていません。
総務部門における生成AI活用事例
総務部門は、人事総務として人事部門と合併している場合もあります。社外には、会社を代表する窓口として社会との良好な関係を築き信用保持につとめ、社内にあっては、規律正しく明るく文化的な企業風土を醸成し、安全・快適・効率的な職場環境をつくるなど、経営基盤の確立に寄与する部門とされます。(参考)
総務部門:外部との接点となる社用車における生成AI活用事例
企業及び総務部門が外部と持つ接点は多数ありますが、その一つに社用車の維持管理があります。社用車は公道を走り、公共そして乗車する社員の安全にも関わります。
社用車には営業車やルートを巡る通勤用バスがあります。専用の社内積載カメラを通じて情報を収集することで、運転手の運転状況をモニタリングして安全運転のための行動を促したり、危険な動きがあればアラートを発するなどの機能を利用できるほか、ルートを巡る通勤用バスのルート・燃費の最適化を推進できます。
総務部門:社内対応における生成AI活用事例
Leena AIは、HR/IT/財務の専門家が従業員の質問やチケットへの回答に時間の50%を費やしている点、従業員側はそれらの回答を待たなければ彼らの業務推進が滞る点などに着目し、企業のナレッジを取り込み、従業員のすべての質問に人間と同じように回答するソリューションを提供しています。
コカコーラ、ソニー、プーマ、ボーダフォン、ネスレ、P&G、Airbnb など 500 社の顧客を抱えているとしています。
経営企画部門における生成AI活用事例
経営企画部門は少数が各自の業務を推進しているために従業員が業務を兼務しない場合も多く、また、経営企画部門がハブとなり各事業部へまたがって支援活動を繰り返して会社全体への貢献をする業務内容も多いです。
経営企画部門に所属している社員の、ある程度属人化されてしまっているともいえる各業務において適切に生成AIが活用されると、人材流動時に対応しやすくなるとも言えます。同部門の各担当者が抱えている業務を随時棚卸しし、生成AIの利活用を推進して、属人化しすぎないようにしておくことも必要でしょう。
生成AIは特に金融業界で活用の可能性が高いともされており、その用途の例に、パーソナライズされた投資推奨を生成し、市場データを分析し、さまざまなシナリオをテストして新しい取引戦略を提案できるとされています。(参考)よって、M&Aに関連する経営戦略企画や経理・財務における可用性が高まるともいえるかもしれません。
経営企画部門:企業全部門への生成AI導入・活用推進
業務内容に経営へのレポーティングがある場合、レポーティングに必要とする数値・情報を各部門から迅速に収集するために、各部門での数字の収集と蓄積が円滑になるための生成AI関連ツールの導入を経営企画主導で実施することにより、最終的な経営企画での業務が滞りなく推進できるようになるでしょう。そのために情報システム部門との連携も必須になると言えます。
レポーティング以外にも、経営企画は会社の業務に広く関わる各種決断が求められるため、定量的な情報を収集するために生成AIが活用できます。
経営企画部門:市場調査における生成AI活用事例
経営企画部門が担う新規事業の開発やM&A業務には市場調査が欠かせません。こういったコンサルティングに関連するような市場の調査、分析のためのデータ構造化などは、生成AIが得意とする分野と言えるでしょう。生成AIは強化されたデータ分析、効率的な問題解決、カスタマイズされた推奨事項などが実施できるため、意思決定が支援されます。(参考)
情報システム部門における生成AI活用事例
会社で利用される情報技術に関連するソフト・ハードの両面で支援をするのが情報システム部門です。
自動化はクラウドコストの最適化の鍵となりますが、どれほど熟練しているIT チームでも、最低コストでパフォーマンスを実現するために必要なコンピューティング、ストレージ、データベースの構成を継続的に正確に判断できるとは限りません。しかしAIソフトウェアを導入すると、リソースがいつどのように使用されるかを特定し、実際の需要にリアルタイムで対応できるとしています。(参考)
サイバーセキュリティの強化や社内備品の管理などもこの部門により滞りなく実施されることで、従業員の業務、ひいては企業や提供ソリューションの可用性も向上できます。
マーケティング部門における生成AI活用事例
マーケティング部門は営業の上流あるいは下流にあるなど企業によって配置は変動しますが、営業活動と直結していることには違いありません。宣伝販促などの業務を担う部門です。
Letterdropはどのようなコンテンツが収益を生んでいるかを把握できます。SEO、LinkedIn、販売促進を通じて、より多くのコンテンツを作成します。同社はより多くのリードを獲得するために、雇用を増やし、活動を増やし、量を増やすことは以前のようには機能しないと問題視した上で、AIを活用して顧客との接続を自動化し、関連する会話を監視し、市場にいる購入者に関するアラートを取得、営業において顧客との信頼関係を構築します。
さらにマーケティングにおけるコンテンツのオペレーションについても、数十人のライターと月間100ページにまで拡張できる 1 つの集中型ワークフローで、CMSへのコンテンツのアップロード、承認、ライター、アイデアの取り込みの管理にかかる時間を週 12 時間節約できるとしています。
Jasperは、企業の知識を取り込み、ブランディングを統一し、コンテンツの作成から展開までを支援し、マーケティングパフォーマンスのための洞察までを提供するツールです。エンタープライズでプラットフォームや製品にJasperを導入でき、企業は自社でのAI開発を必要としません。
営業部門における生成AI活用事例
マーケティング部門が担う部分以外の顧客獲得業務、見込み・潜在顧客の維持管理、顧客になった後の継続、顧客の成功のための支援などの業務を担うのが営業部門です。
CRMツールとして名高いHubspotは、営業面でもマーケティング面でもAIを導入したソリューションを提供し、顧客の営業活動を支えようとしています。しかしランディングページを一読した限りでは、営業活動強化のためのマーケティング支援ソリューションへAIを活用しているようです。
同じくCRMとして有名なSalesforceのAIソリューションは、営業で使えると嬉しい、顧客との会話分析、商談のスコア化による顧客対応優先度づけなどを支援するようです。
InventiveはB2B営業チームが取引を勝ち取るのに役立つインテリジェンスの構築を使命としているツールです。このツールが作られた理由のひとつに「回答の作成と質の高いコンテンツの管理は大変な作業です」というものであり、営業の業務における顧客に対するチューニングの必要性をわかっているAIツールであると言えます。売る側は、実際には同じものを売っていますが、特に無形商材かつカスタマイズの可変性が高い商材であるような場合、最前線で顧客と対峙している営業担当者には買い手に合わせた提案が求められ、それに時間を取られる状況もままあります。その提案準備などを任せることができます。
Vocadeは企業用の発信・受信の電話業務のために、開発者が簡単にLLMアプリケーションを構築できるツールです。24時間365日、多言語でナレッジベースに接続しながら対応できるAI電話ツールをより簡単に開発・提供できるのは企業にとって魅力的です。
Synclyは顧客とのコミュニケーションを分析できるツールです。しかし顧客が必ず正しいコミュニケーションをとっているという性善説をベースに分析するのか、言外の要素まで読み取ることができるのかといった点には言及されていません。
経理・財務部門における生成AI活用事例
企業の財務関連業務を全て担うのが経理・財務部門です。
トムソン・ロイター研究所の2024 年プロフェッショナル サービスにおける Generative AI レポートによると、税務および会計事務所の 30% が GenAI ツールを使用するかどうかを検討中であり、49% は現在使用予定がないとわかっています。(参考)しかし同時に、調査回答者によると、税務事務所の8%がGenAI技術を使用しており、13%の事務所が近いうちにこの技術を使用する予定であるとも回答しています。またこのレポートでは会計事務所のBig4であるDeloitte、EY、PwC、KPMGの生成AI活用事例にも触れているほか、が生成AIを会計/簿記の自動化、税務調査、納税申告書の作成、税務アドバイス、文書レビューに活用していると解説されています。
またDeloitteのこちらのコンテンツでは、経理・財務部門のコントローラーシップ、戦略的財務、内部監査、財務計画と分析に活用できるといった方法が紹介されています。
生産・研究開発部門における生成AI活用事例
ソフトウェアエンジニアの業務は企業の生産・研究開発部門に配置されることも、別で独立していることもありますが、こちらに含めさせていただく上で述べると、ソフトウェアエンジニアの業務は全般的に生成AIを活用できると言えます。筆者の知人の開発者たちも多数が「自分たちの仕事の多くを置換できる」「自分たちの業務を楽にするために生成AIの学習に協力しているといえる」などと言います。
McKinsey & Companyのレポートによると、研究開発における生成AIの活用は、生産性を向上させ、研究開発費全体の10~15%の価値をもたらす可能性があるとしています。(参考)また同レポートでは、ライフサイエンスや化学業界では生成AIの基礎モデルは候補分子を生成し、新薬や新素材の開発プロセスを加速でき、また、バイオ製薬会社のEntos社が生成AIにより自動化された合成開発ツールを組み合わせて低分子治療薬を設計している事例、同じ原理で、より大規模な物理的製品や電気回路など、他の多くの製品の設計にも適用可能であるなどと紹介しています。
製造業、自動車産業、航空宇宙産業、防衛産業では、生成AIによるデザインにより、パフォーマンス、材料、製造方法などの特定の目標と制約を満たすよう最適化された設計が作成できます。これにより、エンジニアが検討できるさまざまな潜在的なソリューションが生成され、設計プロセスが加速されます。(参考)
企業が業務に生成AIツールを導入する際のポイント
企業内の各部門における各業務で生成AIが活用できる、活用のためのソリューションが開発されているとがわかっています。では企業が生成AIを具体的に導入したいとき、どういったポイントを気にすべきでしょうか?
話がずれますが、こういった問いにこそ生成AIも活用できます。BCGのレポートによると、ナレッジワーク、特にこれまで自動化の可能性が最も低かった意思決定やコラボレーションに関わる業務に大きな影響を与える可能性があるとされています。(参考)面白いことです。
話を戻すと、では、企業はどのような基準で生成AIを導入するための意思決定をすべきでしょうか。
1.リスク管理ができること
社員が利用しようとしている、あるいは、すでに利用している生成AIツールの安全性やデータ保護は、何に準拠しているでしょうか。それらの審査はどの部門によって実施されているでしょうか。それらが実施されず、自社情報や顧客情報などが生成AIツールに流し込まれていないでしょうか。多方面でリスクが管理されているかどうかは重要です。
生成AIとそのアプリケーションの基盤となるテクノロジーは進化し続けるため、組織は定期的にリスクを特定する取り組みを繰り返す必要があります。(参考)
2.経営陣と従業員の理解を得ること
先端技術が多くを代替するのは歴史通りです。紙芝居がテレビに、ブラウン管テレビが液晶テレビに、公共交通機関を乗り継いで成立されていたオフライン商談がオンライン商談になるように、FAXで送受信していた見積書や発注書がメールにPDFを添付して送受信可能になったように、技術は私たちの仕事や生活の利便性を向上します。
従業員の中には、仕事の代替や置換とする文脈で反発や不安の感情を抱く社員が存在するかもしれません。しかし、インパクトのある製品で市場で存在感を持っていたとされる企業は「AIや自動化の波に乗り遅れたこと」が理由で開発力に陰りが出てしまい、人員削減を余儀なくされる例があります。生成AIの導入が遅れることの方が企業のリスクになり得ます。(参考)
「みずほ銀行では、将来を見据えて、市場と従業員にAIを導入することで業界がどのように変革できるかを幅広く考えています。この変化を効果的に管理することは非常に重要であり、特に従業員とのコミュニケーションが重要です。人々はその影響に疑問を抱いており、リーダーは極めて個別的なアプローチを取る必要があります。一人ひとりの経験、スキル、潜在的な機会拡大について話し合うのです」
-みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員兼グループ・チーフ・デジタル・オフィサー、梅宮真氏(参考)
おわりに
生成AI導入の有無・可否で、企業の成長や求職者の確保までさまざまな影響があるといえるでしょう。
BCGは、生成AIがビジネスにもたらすメリットとして4つ、労働生産性の拡大、顧客体験のパーソナライズ、ジェネレーティブデザインによる研究開発の加速、新たなビジネスモデルの出現を挙げています。(参考)
ぜひ各社で導入や利活用に向けて建設的な議論が発生することを願います。
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