インフラエンジニア鬼十訓
こんにちは、テコラス株式会社技術研究所の伊勢です。この度、テコラス::データホテルテックブログが開設されたようでして、「最初のエントリは最年長技術者が書くべきじゃねーか?」というデジコアディレクター松本氏からの脅迫に近いお達しにより、一発目のエントリを書くことになりました。とはいえ、最近あまり仕事もしておりませんし、旬な技術や実装ネタも無いため、どーしよーっかなー?と考えていましたら、技術評論社Software Design誌編集長の(心やさしい)池本さんから、過去に寄稿した記事を転載してもイイヨ!というありがたいお言葉を頂きましたので、それを元に書きたいと思います。
本エントリは昨年12月4日に技術評論社から発売されたSoftware Design別冊シリーズ「インフラエンジニア教本」に寄稿させて頂いた「インフラエンジニア鬼十訓」を転載したものです。この鬼十訓は私の経験知見だけではなく、過去30年に及ぶIT業界生活の中で様々な人から伺った(主に酒の席で)お話などを統括編纂したものです。新年度になり、インフラエンジニアを目指す新入社員やキャリアアップを目指す若手エンジニアの参考の一つとなれば幸いです。
1.真実を求めるな。事実を求めよ。
エンジニアは個人の理想、思惑、願望、希望といった感情的哲学的要素によるフィルターを通じて物事を判断してはいけません。エンジニアの判断に必要なのは事実であり、それ以外の要素を判断材料とするのは問題の本質を見誤る事になります。アーキテクチュア、プロトコル、システムモデル、フレームワークなど、日々新しい技術や概念がどこからともなく溢れ出てくるのがIT業界の特徴ですが、それらが本来の問題を解決するものなのか、構造、方式、実装、データといった事実に基づいて判断する必要があります。
単に目新しいだけだったり、著名人が提唱し業界が注目しているに過ぎなかったりすると、労力をかけて技術を習得しても一向に活用されず、無意味な時間を過ごしてしまう結果になります。話題性だけの技術によって恩恵を受けるのは評論家やコンサルタント、メディア、現場から離れた元エンジニアなど、直接その技術を駆使しない人々のみです。実際に技術を以てシステムを構築運用するエンジニアには、それから得られるものは何もありません。
2.ケーススタディは必ず自身で検証せよ。
新しい機能や実装を理解しようとするとき、それらの解説やケーススタディを示した書物、ドキュメント、記事、ブログなどを参考にすると思いますが、それらのみで完全に技術や手続きを理解把握する事は不可能です。技術書籍、エンジニアブログが参考となる事は事実ですが、そこに執筆者がその対象技術に関する全て情報を提供しているとは限りません。本人にとって敢て書くまでもないと考える事項は省略され、またそれほど重要ではないという項目が端折られている可能性もあります。また、たまたま発生しなかった外乱やバグに起因する事項は示されません。
すべての技術情報や文章はあくまでそれを記述した執筆者の経験情報であり、別の技術者が異なる条件や状況においても完全に再現されるとは限りません。たとえケーススタディに記載されている環境条件がほぼ同じであっても、自分自身の環境や条件で今一度自ら確認する事が重要です。
3.エンジニアと会話しろ。文字だけでは伝わらないナレッジが共有できる。
エンジニアはブログや書籍、雑誌の記事等でさまざまな技術について記述したり、セミナーやイベント、勉強会などでスライドを用いて発表したりします。それらを読んだり聞いたりしただけでも自分自身にとって有益な情報や知見が得られる事はあるでしょう。しかし、それらにエンジニアの脳内にあるさまざまな経験や知識、知見をすべて網羅して表現する事は不可能です。
また、書籍やセミナーでの講演などは品格、威厳、知性などが求められ、比較的フォーマルな表現を強いられる場合があります。するとエンジニアが本来強調したかったり、批判的に考えている事項、不確かだったり疑問を持っている部分などあまり抑揚をつけて表現する事に躊躇してしまう事もあります。
しかし、重要なのはそれら事実を各エンジニアの経験と知見をもってどう解釈しているかという事です。各エンジニアが提供する情報は、それを解釈する本人の経験や知見がブレンドされ、それはより本質に近い可能性があります。エンジニアの経験や知見も含んだ情報は一方的な記事、書籍、講演などでは得がたいものであり、直接そのエンジニアと会話するしかありません。
より本質に近い情報を得るためには、さまざまがエンジニアが集い、忌憚なく会話できる機会をできるかぎり持つ事が大切です。
4.自身のナレッジを発信せよ。提供せずして得られる物は無い。
情報とは双方向に伝達する事で初めて価値を生み意味を持ちます。最初はネット上のブログ、書籍や雑誌等だけから技術情報を得ると思いますが、より有益な情報を得るには、まず自分から技術情報を発信する必要があります。
情報を発信する事で周囲のエンジニアはその技術者がどのような経験を持ち、どの分野に造詣があるのか、どういう知見、解釈のアプローチを持っているのかを認識する事ができます。そのため、その技術者にとってより有益な情報を伝えようとし、直接会話する時や各人の発表執筆において、自然とその部分を取り上げるようになります。すると、自分にとって気づかなかったり思いがけない事実を知る機会が多くなり、自分の技術的知識がより深く、正確かつ現実的になっていきます。
情報を取得するだけで、提供しないエンジニアにはありきたりの情報しか集まってきません。
5.無知は罪である。
エンジニアが全ての技術に熟知するというのは非常に困難な事かもしれません。しかし、たとえ専門外の技術であっても可能な限り知っておく必要があります。IT技術の各要素はそれ単独で存在し、価値を持つものではありません。それ以外のなんらかの分野に対して働き掛ける事によって初めて意味を持つ技術分野です。
ITインフラエンジニアには専門外という分野は無いと思ったほうが良いでしょう。「それは自分の専門外」と言うのは「知らない事はそのままにしておこう」という言い訳でしかありません。専門分野以外であっても不明な点や疑問がある場合、ある程度理解するまで追求し、納得しておく事が重要です。「無知は罪」と言いましたが、厳密に言うと無知のままでいることが罪なのです。
6.時間は作るものだ。
エンジニアが上司や同僚から業務外で何か聞かれたり頼まれた時に「そんな暇は無い」「そんな時間は無い」と断る人がいると思います。これは技術者として恐ろしい事です。暇や時間は与えられるものではなく、自分で作るものです。もし暇や時間が作れないのであればエンジニアとして今以上にスキルアップし成長する事は不可能です。
今、会社や組織から与えられている業務は基本的に今の自分にできる、もしくはできそうな作業に限定されます。エンジニアがスキルアップするには業務以外に自分で学んだり確認したり、試したりする事が必要です。もし時間を作る能力が無いのであれば、その新しい技術や実装に触れる事ができません。
「時間が無い」というのが「やりたくない」という意味であるならば救いがありますが、もし本当に「時間が無い」というのであればエンジニアとして生きていくのは無理なので職種を変えましょう。
7.理解してもらうより、理解する事を優先せよ。
インターネット上のサービスやアプリケーションを利用しているユーザはネットワークやインフラを直接目にしたり耳にしたり触ったりすることはありません。つまりネットワーク、インフラエンジニアはこのインターネット上での裏方であり、人々の会話やメディアに主役として取り上げられる事はほとんどありません。
エンジニアに限らず自分が関わっているプロジェクトや技術など、広く人々に知ってもらいたいと思うのは当然の事ですが、前述のようにほとんどの人にとってそれは強く興味の惹かれるものではないのです。我々インフラエンジニアの存在は通常認知されない立場であり、もしユーザが我々を意識する事があるとすると、それは何かトラブルが発生したり問題があったりする時だけです。
我々の仕事や存在を一般のユーザに知ってもらったり理解してもらう必要はありません。逆に我々がなすべき事は、インターネット上で様々なサービスやコンテンツを提供し利用しているユーザを理解する事です。何か不満や問題は無いか、どういう状況で利用しているのかを知り、理解し、それを技術を以ってシステムやサービスの品質利便性を向上させる事が本務なのです。利用者を理解することで自身の技術をより現実的かつ有益なものにしていくことでしょう。
8.褒められた時こそ最大の警戒をせよ。
エンジニアに限らず自分の仕事や業績を評価され褒められる事はうれしいものです。しかし、同僚、上司、顧客、ユーザ等から評価されたからといってそれが「ゴール」というわけではありません。長い長いエンジニア人生のたった一瞬の事に過ぎません。
IT業界は日々新しい技術や方式、実装が次から次と生まれてきます。エンジニアは完全に引退するまでずっとそれら新しい技術を学び習得する必要があります。褒められ自分はデキると感じた時点で、学び続けようとするモティベーションに陰りが生じます。人は自分は至らないという自戒の念があって初めてより高みを目指し学ぼうとするものです。たった一瞬の出来事で満足してしまうと、その時点から坂道を転げ落ちるように落ちぶれていきます。
褒められたり評価された時ほど、自分を冷静に見直し、未だ至らない部分はどこなのかを反芻する事が大切です。自分はデキると考えるのは、至らない部分には目をつぶろうという気持ちの現れです。自分の至らなさから逃げるのはよしましょう。
9.ITに興味があり理解する人をパートナーに求めよ。
エンジニアの生活はパソコンと回線さえあればいつでもどこでも作業な可能であるため、仕事とプライベートとの線引が難しいものです。24時間サービスを提供しているサイトの運用担当者などは、会社と家庭はもちろん、平日休日の区別も怪しくなります。また仕事や作業でなくとも、自信のスキルを上げるため、業務後や休日に勉強会やセミナー、それらに伴う懇親会などへの参加も多々あります。このようにIT業界は比較的就業時間がハッキリしている古典的産業界とは異なる生活習慣をもつため、別の業界の人から見るとプライベートに仕事を持ち込むワークホリック的な扱いを受ける可能性があります。
また、一般の人にとって、コンピュータやインターネット関連というだけで、それら全てに詳しいと考えてしまいます。サーバミドルウェアを担当しているエンジニアにOutlookが固まる問題をなんとかしてほしいと言っている人を見かけた事はないでしょうか?無理ゲーです。多少なりともIT業界で働いていたり、IT関連企業と取引やお付き合いがある仕事をしているならば、そういった事情をある程度理解しているはずであり、無茶な要求はしないものです。
プライベートにおいても、理解してもらうより理解しようとする事は大切ですが、後々後悔しないためにも彼氏彼女、夫妻など人生のパートナーには少なからずIT業界に理解のある人を選んだ方が無難です。
10.楽しくなかったら転職せよ。
運用設計ラボ波田野氏曰く「学ぶ年寄りには敵わない」という言葉があります。裏を返すと学ぶ事を止めると過去にどんな業績を残した人であっても簡単に後続者から追いつき追い越されてしまう事を意味します。これまで述べてきたように、ネットワークインフラエンジニアは終生学び続けなければなりません。学びつづけるためには、学ぶ対象に興味が無いと継続できません。興味の無い事や指示された事だけ処理する仕事は楽しくなく喜びも感じません。自動的にその作業や対象、内容についてより深く知ろうという興味も湧きません。興味が沸かないので調べたり学んだりする事もありません。数年すると周囲よりかなり見劣りするパッとしないエンジニアが生まれるだけです。
今の会社や職種、業務が楽しくないエンジニアには未来がありませんので、早々に職場を変えるか、職種を変えたほうがいいでしょう。人生の無駄です。
まとめ
以上ですが、いかがでしたでしょうか?全てとは言わないまでも、いくつか腑に落ちるものがあれば幸いに思います。ちなみにですが、私自身約30年間インフラエンジニアをしておりますが、結果的にこの職業を選択してよかったと思っています。まあ、私がこの職業を選択した時と、今の時節や業界の状況とか世相とかは今と大分違うので、一概に「インフラエンジニアサイコー!」と言い切る事が難しいですが、大切な事は
一度始めたらやり続ける
ということと、
人の話しを鵜呑みにしない
という事だと思います。
参考までに今年6月18日発売のSoftwareDesign7月号でもイケてるエンジニアになるためには?的な特集が予定されていると小耳に挟みましたので、イケてるエンジニアを目指す方々は一読をおすすめします。
それではみなさん頑張ってください。これからもテコラス::データホテルテックブログをよろしくお願い致します。
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